9月5日(土)、和歌山大学南紀熊野サテライトの令和2年度(後期)オープンセミナー(オンライン)が開催され、客員教授である観光カリスマの山田桂一郎先生の特別講義をオンラインで受講しました。その備忘録としてブログにまとめます。
「スイスに学ぶ 地域教育を通じた地域振興 〜 いまだからこそ考える南紀熊野のこれから〜」という題で、主にスイスの超高級リゾート、ツェルマットの事例を中心にお話しされていました。
スイス・ツェルマットについて
先生はスイス・ツェルマットに在住ですが、月1-2回、日本に帰ってきて地方の地域振興を手伝っておられます。コロナの影響でスイスへは戻れますが、日本に来るときに14日間の自主隔離が大変なので、日本に留まっておられます。
マッターホルンの麓、ツェルマットは人口5700人。馬車と電気自動車しかない観光リゾート。宿泊施設の部屋数は全部で13000室。年間約200万泊が変わらないのは、新しいホテルは建てられず、改装改築などの規制が多いため。質の高い商品サービスなので、満足度が高くリピート率は70%と驚異的。農業と観光を基軸に住民主体で地域経営に取り組み、地域全体の収益化だけでなく税収増をもたらし、州政府と国に上納金(!)まで納めているそうです。そこが日本との違い。日本は政府からの交付金が無いと自治体はやっていけませんから。
スイスは連邦国家。大きさとしては日本の九州くらい。人口850万人っていってたかな。1つの国にドイツ語イタリア語フランス語ロマンシュ語の4つの公用語がありますが、バラバラってイメージが無い。国として統一ブランドイメージ(スイスブランド)があり、スイス国民の高いQOL(ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた『生活の質』)がブランドを担保しています。世の中の価値観や市場が変わる中でも、質を上げていくことに成功しています。
今は、チョー富裕層も来るリゾートではありますが、日本に比べて自然環境も厳しく、昨年も確か土砂崩れがあったような。雪崩で集落が消えることもあるくらい。百数十年前までは貧しい地域で、特に山男は体力あるので傭兵として雇われてたそうです。ちなみに、永世中立国で有名なスイスですが、私も初めて知ったことがあって、国民皆兵の徴兵制があり20歳以上で訓練を受けるそです。基礎的な訓練もあるほかレスキュー、リスクマネジメントも学ぶとのこと。周囲を欧州の大国に囲まれている故のことかもしれません。
スイス人は質が高いものは高くても買うとのこと。代表的なのは卵の話。スーパーで販売している卵は地元産の他に安いフランス産や海外のものが並んでるが、高い地元産から売れていく。(日本は全く逆で特売1パック98円のほうから無くなるし、地元産の味噌よりは特売のメーカー品を買う)
その理由を買っていく地元の人に聞くと「地元の卵を買わないと、回り回って自分の仕事が無くなる。地域を支え合う仕組みや考えがしっかり教育で根付いており、日頃の暮らしや生き方にも影響を与えています。みんなでルールを守って産業を維持しよう、理解をして買い支えているのです。
地元資本を守り買い支えるということでいえば、村の製造業には、村で使われる馬車と電気自動車を作る地元資本の会社があるなど、必要なモノはすべて自分達で揃えて自分の町で経済を回す仕組みが出来ているのです。この村は都会からも4時間ほど離れているので観光も日帰り客よりも宿泊客が多く、宿泊や外食で外貨がたくさん落ちます。
地元の村を一つの会社と見立てて、地元住民が主体的に地域経営して、地域内に落ちたお金を外に流れないように工夫して、地域内でいろんな事業者の間で取引を増やして加速度的にお金を回し、景気をよくして税収をあげているのです。どうやって社会と私が繋がっているのか?という部分を「我が事」として考えることができるか、ですね。
ツェルマットは他民族多言語多文化のダイバーシティーのお手本ともいえる村、3人に1人が外国人で特にポルトガルの人が多いとのこと(出稼ぎかな?)。そんな中でどう産業だけでなく生活文化を守り継承しているのか。スイスは職業コースなどあらゆるコースに行っても大学に戻って学べるシステムがあり、職業訓練に入ってもやっぱり大学で学びたいと思ったら大学に入り直すことができるとのこと。学ぶ環境が日本と比べて整っていそうな感じです。
地元教育の重要性
スイスにも日本で言うところの総合学習、ふるさと教育のような地域を学ぶ授業があります。自分が住んでいる町や村を中心に学び、現在から歴史を遡って学ぶとのこと。ここは日本のように縄文弥生時代から学び、明治時代に入って第二次戦争前あたり時間切れになりうやむやになる、ということとまるっきり正反対。
例えば、2020年9月(今月やね)はこのようなコロナの状況になっています。それで昨年は…と遡っていき、「なぜこうなったのか?」を深める授業が多い。日本のふるさと教育は産業などは学んでも地域の歴史まではドンドン遡って学ばないですもんね。
自然環境の中で人が住み着き、生業ができる理由がある。スイスではここに自分達が暮らし生きていること、地域としての「個」は何か?ということを学ぶアイデンティティ教育がしっかりとしているのですね。そのため、教科書は町毎に違い、地域のなりたち、産業をふくめたいろんな形で学びます。地域の大人達が先生で、学校で教えることもあれば、自分たちの職場に来てもらってチーズづくりや登山列車、ホテルのシェフに話を聴くこともあるそうです。
まぁ、私の住む但馬では「トライやるウィーク」と題して、中学生を5日間職場学習させることをしていますが、大人の仕事とふれあうのは義務教育期間では皆無に近いのでは?
そうやって、大人の仕事を見て学んだ子供達はいろんな形でアウトプットし、牛飼いのアルバイトなど、地域の産業や暮らしを守る自主的な活動に発展させているそうです。町全体のビジネスのありかた、仕組みを理解しているからこそ、自分たちの町を如何に大切にしなきゃいけないか、ビジネスをしながら町にどう貢献していくべきかを答えられる子供が多い。その結果、地元への愛着度が深くなり、自信と誇りに溢れてる住民になる。
確かにスイスでも外に働きに出る若者も多いらしいですが、それはあくまで「修行」で、地域に戻って事業承継するサイクルが出来ているとのこと。教育が地域に関わっているからこそ、それが地域活性化、地域振興の土台になっているようでした。特にスイスの場合は、教育水準、知性と教養が高く、4つの言語、州毎に違う風習、移住者も多いので、様々な違いを受け入れる文化(ダイバーシティ)が根付いてる。違うのは当たり前、そんな中で接点を見つけてでないと暮らしていけません。
次世代の社会と人
近江商人の言葉に「三方良し(お客様良し、世間良し、自分に良し)」という言葉がありますが、実はもう一つ、四方良しという言葉もあり、それが「未来に良し」。地域振興は将来を意識することも重要です。次世代を作る人たちとは、地元に対して愛着があり、アイデンティティが確立している人。教育水準、知性と教養が高い人。特に多様性を認める人は相手を認め、懐が深い。教養のある人ほど人の話はちゃんと聞き認めますからね。この地域を未来に繋ぐため、地域へ果たす責任とは何かを考え、一生学び続け、行動に移すことが大事です。
講演後のディスカッションを聞いての雑感
日本では地元のビジネスや観光のことについて学ぶ時間がスイスよりも少なく、どういう風な産業で自分達の町や村が成り立っているのか、どの産業がどう連携しているかについては、恐らく教育現場でも伝えているのだけど、点でしか学べていないのかもしれません。一つの産業を点にすれば、それが連携すると線になり、それが地域全体でというと面になります。支え合う仕組みについての理解は、教師の言葉よりも身近な地域の大人や職人の声でないと魂に響かないのかもしれません。
大人が毎日疲れて帰り「ここにいるより都会で仕事を見つけてきなさい」と地方から出してしまうと、帰らないですよね、モノの魅力、町の魅力、人の魅力が無いから。逆に、しっかり地方の良さを知る教育をすることで、地方を出たときより一層自分の地域について思うことが増えるはず。地元に仕事が無ければ作ればいいだけ。
まぁ、仕事が無いから都会で修行して地元に帰って仕事を作ればいいといっても、それで一番反対するのは親。それで、結局、親の仕事の手伝いだけさせ、自分と比べて頼りないからと継がそうともせず、いきなり親が病気で倒れたり亡くなったとしても、継くだけの実力が備わらないままなので廃業することになるんですよね。はたまた、自営業よりサラリーマンを親は選ばせたがるから、帰ってきても仕事先は自治体や銀行、農協くらいしかない地方の現実があり、選択肢が見えないのが実情…
都会に出た息子娘にはその閉塞感が見えているので帰ってこないのかもしれません。原因は大人、そして地元を愛し、そして地域を支えるアイデンティティを植え付けない画一的な日本の教育も言えます。地域振興とは地域を支える人を育てる人財育成だいうことに改めて気付いた次第です。
地域振興に対して数々の補助金や助成金、交付金が配分されてきましたが、お金ではないですね。裕福であってもその地方を支え将来に向かって真剣に地域振興に取り組める人財をどう育てるか、です。和歌山大学の南紀熊野サテライト制度は、大学レベルの一流の学びを過疎地域でも学ぶことができる画期的な制度です。似た地域でもある兵庫県日本海側・但馬地方でも大学レベルの学びの場がまだまだ不足しているので、羨ましい限りです。
ちなみに私は今年サテライトの授業で登壇予定なので、今から授業の組み立て必死に考えます。。。
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